食環境ジャーナリスト
効率追求型の食見直すとき
−スローフードという言葉の起こりは。
1986年、イタリアの首都ローマに最初のマクドナルドが進出した際、反対運動が起きました。街の景観を乱されること、均一の味を押しつけられることに不快感を持つイタリア人がたくさんいたわけです。
中でも「バローロ」というワインの愛好家協会などが「おれたち、ただうまいもん食ってるだけでいいのか」と運動の先頭に立ったんですね。ファストフードに対抗して地域の食文化、食の多様性を守る活動をしようとNPOを作った。
このとき、均一な味のファストフードに対し、地域に根ざした食材や食文化を「スローフード」と名付け、NPOの名称も「スローフード協会」になった。「ファストの反対だから、スロー」というわけです。
協会には世界で約8万人の会員がおり、日本でも02年、私が発起人の一人となって「ニッポン東京スローフード協会」が設立されました。
−スローフードの条件とはどのようなものでしょうか。
効率を追求した作り方でない、健康な食材や料理であること。大規模に生産、流通しているものではなく、各地域に根ざした食べ物であるということです。
かと言って懐古趣味だったり、健康第一で味は二の次だったりという意味ではありません。スローフード協会は小規模な生産者や地域に根ざした食文化を守るために尽力しています。どうしても値が張りがちなスローフードが安価なファストフードに勝つには、「おいしいこと」が大前提なんです。いくら体によくたって、まずくちゃダメです。
−かつてはファストフードに対して目立った反対運動が起きなかった日本で今、スローフードに注目が集まっているのはなぜでしょうか。
ファストフードに代浮ウれる効率追求型の食生活を続けてきた結果、自分たちの健康に大きな影響が生まれていることに人々が気付いた。形がよく流通させやすい野菜を大量に作るため、化学肥料や農薬をどんどん使う。牛には肉骨粉を食べさせ、早く太らせる。以前から危険性は叫ばれていたが、その影響が目に見える形で浮黷トきた。小学生の4割が何らかのアレルギー症状を訴え、成人の6分の1が糖尿病とその濫?R。肥満傾向の児童も激増してます。
そして牛海綿状脳症(BSE)の発生は、決定的に食への信頼を揺るがしました。消費者が今求めているのは、「○○町の誰々さんが作った」という安心感。小規模で実直な生産者が見直されているんです。
−スローフードの魅力とはなんでしょう。
まずおいしいこと。そして生活全体を豊かにしてくれることです。効率を追求しないことで農薬や化学肥料の使用が抑えられ、微生物が多く住むいい土になり、いい食材が育つ。食べ物の味とは、それを生んだ土地の味なんです。
各地に残る多彩な食材を見直し、旬を学び、調理法を知り「ああ、うまいなあ」と堪狽キる。休みの日にはその食材を作っている畑や牧場に出かけてみる。少し余裕があれば、庭やベランダで野菜を育ててみる。それって、とても豊かな生活だと思いませんか。
−今回の連載は「埼玉のスローフード」がテーマです。
農地を事実上、放棄してしまった東京と違い、埼玉では生活のすぐそばに農地があり、地域に根ざした生産者がたくさんいる。人口が多く、最高にうまいものを作り出す職人や料理人が数多くいるのも魅力です。
例えば、日高市のサイボクハムでは、上質で安全な豚肉やハムに加え、敷地内の直売所に近隣の農家が有機栽培した野菜がずらりと並ぶ。安心できる食材を求め年間380万人が訪れ、売り上げは12億円を超えます。川越市の小野食品は豊富な地下水と国産大豆で極上の豆腐を作り、全国から注目を集めています。
金丸 弘美(かなまるひろみ)
食環境ジャーナリスト。全国の農村などを取材し、農業、食材、環境問題に取り組んできた。ニッポン東京スローフード協会設立発起人の一人で、生産者セクションの代武「話人。著書に「本物を伝える日本のスローフード」「まともな食べ物が食べたい!」など。徳之島在住、51歳。
3日からは連載「土を食らう・埼玉スローフード」が始まります。埼玉の土に生き、安全で豊かな食を生み出す人々の姿と、こだわりの食材を使ったプロのレシピを紹介します。
http://asahi.com
